原発輸出「日本は無責任」 不安募るベトナムの村

東京電力福島第一原発事故にもかかわらず、ベトナムでは日本による初の原発輸出事業が進む。経済成長を背景に電力不足に悩むベトナムは、共産党の一党支配とあって、目立った反対運動はみられない。だが、大自然に囲まれた建設予定地を訪ねると、人々は一様に日本の二の舞いになることへの不安を抱えていた。

 (ベトナム南部ニントゥアン省タイアンで、杉谷剛、写真も)

■漁村

 ベトナム戦争当時、米軍が基地を置いた南シナ海の要衝カムラン湾から車で南へ約一時間。海辺のタイアン村はブドウやネギの栽培が盛んな人口約二千の農漁村だ。

 付近の海にはウミガメやサンゴが生息し、村の西側には貴重な自然林が広がるヌイ・チュア国立公園もある。

 村で原発計画の説明会が始まったのは三年ほど前から。ベトナム電力公社や商工省が村の集会所で年に数回開催。昨年十月には北へ数キロ離れた海辺の土地に村ごと移転する計画が伝えられた。

■恐怖

 赤ちゃんを抱いた若い母親が打ち明ける。「みんな豊かな漁場のある村を離れたくなかった。そこへ日本の原発事故が起きた。テレビを見て怖くなり、説明会でも反対意見が出た。でも最後は国に従うしかない」

 日本が官民共同で輸出する「ニントゥアン第二原発」は二〇一五年の着工、二一年からの稼働を目指す。現地では日本企業によるボーリング調査がすでに始まっていた。

 説明会でいつも反対の意思を示してきた女性グエン・ティ・ベーさん(75)。南部の原子力研究所にも招かれ、説明を受けたが、「安心はできなかった」。

 日本の事故に関する説明は「地震と津波が原因で、原子力技術には問題がない。ニントゥアンに地震はなく、津波対策は万全を期す」というものだった。それでも「なぜわざわざ人の命や自然を破壊するものを造るのか」。ベーさんは疑問が消えない。

■抗議

 「フクシマ」をきっかけに世界で反原発運動が高まっているにもかかわらず、ベトナムで反対運動は起きていない。それだけに一人の学者が野田佳彦首相宛てに書いた抗議文書に注目が集まった。

 筆者は著名な古典音楽史研究家のグエン・スアン・ジエンさん。「壊滅的な事故で日本は原発を全て停止させたのに、それを輸出するのは無責任で不道徳」と批判し、五月にブログで署名を募って日本大使館に郵送した。その後、博士はハノイ市当局に呼び出され、文書は削除された。

 事故当事国が原発を輸出するという矛盾にも似た政策。コンサルタント業のヌエン・トゥオン・チンさん(40)は最近、福井県の大飯原発再稼働のニュースを知り、安心したという。「大事故に見舞われた日本だけに、原発の安全性が確認されたのだと思った」。再稼働には輸出の矛盾を覆い隠す効果があった。

 ハノイ国家大学のトゥ・ビン・ミン教授(40)は言う。

 「原発は安全性が最も重要だが、ベトナムには原発を安全に運転・管理できる技術者がいない。建設は少なくとも時期尚早だ」 =おわり

<ニントゥアン第二原発> 2010年の日越首脳会談で日本が受注。海面を含めた敷地面積は514ヘクタールで、2基で200万キロワットの発電量を目指す。電力9社と原発メーカーなどが出資する国策会社「国際原子力開発」(東京)が輸出事業を担当するが、東電は撤退を事実上表明した。ベトナム初の原発となる第一原発はロシアが受注。第二より1年早い20年の稼働を目指す。

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